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丹沢ジャーナル

2009年1月「丹沢だより」No.459掲載
秋の植樹行事と丹沢フォーラムに参加して
木平 勇吉   東京農工大学名誉教授  丹沢大山自然再生委員会委員長
 2008年10月25日と12月6日の丹沢自然保護協会の「植樹」と「フォーラム」に参加して秋の丹沢を楽しみました。植樹行事ではヨモギ尾根でブナを2本植えました。土を掘り苗木を植え足で根を踏みつける感触は心地よいものでした。そこで感じたことをまとめてみました。
 植樹には「苗木」と「土」と「人」が必要ですが、このことについての説明がもっと必要かなと思いました。話があれば興味は倍増したでしょう。苗木については、どこの木の種か、どこで蒔かれ、どれくらいの期間、どのようにして育てられて、どうやって丹沢に持ってこられたかは知りたいところです。苗木の育て方は興味あるテーマであり、日本でも世界でも苗木つくりは森つくりの最初で最も重要なものだからです。
 次に植える場所の土です。この土壌についても興味が尽きません。畑の土は耕し肥料を施すのでかなり人工的なものですが、森の土はまったく自然に、気が遠くなるような長い時間の結果として出来たものです。土は「その場所の環境(地形、地質、気候、植生)の鏡」といわれています。やわらかい・堅い、湿っている・乾いている、深い・浅い、養分がある・ないなど土は地域と場所により変わります。尾根、中腹、沢 微地形により違います。豊かな土は豊かな森を育てます。また、土を掘り断面を見るのも興味深いことです。土の断面は一様ではなく違ったタイプの土が層を作っており目でよく見えます。普通は4層あり、色、養分、硬さが違います。断面は土壌の発達の歴史であり土の履歴書です。これを観察すると植林はもっと面白くなるでしょう。私が掘ったヨモギ尾根の土は意外とやわらかく土層の発達がなく畑の土に近いものでした。あまり自然ではなく歴史の浅い土と感じました。治山工事で出来た斜面だとの説明を聞き納得できました。「丹沢だより」No.452のように樹木の成長の測定は重要ですが地面の土の観察も面白そうです。ショベルとモノサシとカメラがあれば誰でも出来そうです。掘る深さは50cmくらいでいいでしょう。どのような状態の土地に自分の苗木を植えたかが自覚できます。
 理屈っぽくなりますが、森つくりとは苗木の植栽と考えられがちですが、これからは、その場所に自然に生えてくる稚樹への関心が大切でしょう。また、その場所の土に関心を持つことはボランテアには必要です。人間の努力で目的とする姿の森を作ることは可能な場合もありますが、自然のままに任すのが森林つくりの原則です。農業のように土をつくり人工的に栽培する考え方は合いません。なぜなら、森の樹木は1年を通じて風雨にさらされており、与えられた自然の環境に支配されるからです。工業や農業の思想と森つくりの思想とは相容れません。もちろん、私は人工的な林業も手を触れない原生林管理も好きです。どのような気持ちで森つくりボランテアに取り組むかは個人により異なりますが思い込みや独りよがりを克服するには日々の活動で正しい知識を得ることが大切でしょう。丹沢の再生には丹沢での体験が役立ちます。
 最後に、植樹をする「人」のことについて、すなわち、なぜヨモギ尾根で植樹するかについては「丹沢だより」No.452の中で次のように述べられています。「裸の土地がススキの草原になり、やがて低木の林になり、その間にそれに依存する虫や小動物が住み着き、土が出来、だんだんと層の厚い豊かな自然になる。その先に原生林的な森が出来る。その歩みを少しでも早くしようと植樹し、モニタリングをしてそれを見守る。それがこの仕事だ。」簡潔で素晴らしく理路整然とした説明です。次回の植樹行事にもぜひ参加したいと思います。
 12月6日の「丹沢フォーラム」はシカや更新問題などについて本格的なガイドつきの野外勉強会であり大満足でした。解説者の役割の大切さを改めて実感しました。最後にお世話をいただいた丹沢自然保護協会と自然環境保全センターの研究者に深く感謝します。
  


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