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丹沢ジャーナル

2009年4月28日 水源環境税後援会(講演記録)より
丹沢の実態と丹沢大山総合調査(後編)
木平 勇吉   東京農工大学名誉教授  丹沢大山自然再生委員会委員長
 今写真で見ていただいたように、丹沢の生態系の異変が症状として表れているのは、図表17のような八つのことがあります。もう一度整理すると、一つは、ブナ枯れを再生保全するということ、二番目には人工林を再生し、もう少し生物多様性のある人工林に生き返らせるということです。三番目は地域社会の自立、それから四番目は話しませんでしたが、渓流生態系も荒れています。それから五番目にはシカの保護管理で、これは適切な管理という意味です。それから六番目は希少動物の保全。それから外来種の除去、これも話しませんでしたが大変深刻な問題が起こっています。それから最後が自然公園、国立公園としての適切な利用というものが表面に表れた八つの課題です。
 これを放置するだけではなくていかに対処するかが、私の報告の最後の部分です。丹沢についての調査は非常に歴史が古いのです。1960年、それから1990年ごろにあったのですが、それに対応した政策・対策が十分に取られませんでした。先ほども話しましたように、1980年代からぼちぼちと症状が悪くなり、顕在化して、それではいけないということで、2004〜2005年にあらためて総合調査が行われました。(図表18)。
 これは県の行政、それから研究者、マスコミ、NPOなどの総力を挙げて行われました。非常に規模が大きく、研究者だけでも500人ぐらい参加しました。この仕組みは(図表19)、上が「市民・NPO・関係者」、いわゆる県民・市民です。それから下の方が行政、この場合は神奈川が中心です。その両者が組み合わさって、たんざわの総合調査をやる実行委員会をつくりました。そしてそこに広報県民参加部会、調査企画部会、政策検討といった戦略を練る組織と、そして調査団、実際の問題を現場へ行って調査をするチームをつくりました。調査チームもかなり広範囲で、生き物再生、水と土の再生、地域の再生、情報整備という四つのチームに分かれて調査をしました。
丹沢ジャーナル図表 丹沢ジャーナル図表
 この調査の対応の仕方は(図表20)、縦糸・横糸という感じがあるのですが、一つは横糸の方で、生き物に対する調査、水と土、地域、情報整備という、基本になる調査と同時に、先ほど話した八つの個別の症状に対する調査がクロス的に調査されました。その結果に基づいて、新しい丹沢再生の政策提言になりました。すなわちこれは調査ではなく、調査から次の政策へというものでした。スケジュール的には(図表21)、2004年と2005年に調査、2006年に総合解析があり、政策提言がなされました。そしてそれに対応して新保全計画という再生計画が出来上がり、それが2007年、今スタートしたばかりです。
 いろいろな対策もあるのですが、その中で大変目新しいものは自然再生委員会をつくろうということです(図表22)。これまではいろいろな問題を行政の各部門がやっていましたが、あまり効果が上がりませんでした。それで市民参加・県民参加、それから生態系管理という理念、流域一貫、順応的対応というもので、行政も企業もNPOもあらゆる県民がこれに参加し、様子を見ながらやっていこう。そしてモニタリングをすることによって計画を順応的に直しながら見ていこうという考え方です。この再生委員会はまだ生まれたばかりで、あまり実力があるとは思いませんが、非常に魅力的なものにしていきたいと思っています。
 最後になりますが、これからの問題提起として、私は森林環境としては大変単純に考えています。いろいろ問題があると思いますが、個人的な意見として一言で言いますと、豊かな土があるということ、豊かな植生があるということ、水が豊かで多様性に富む森林、これを丹沢で再現したいと思っています。私のイメージとしての豊かな森林というのは図表23の写真のとおりです。以上で問題提起を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。


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